「駄サイクル」に見る希薄感
『ネムルバカ』というマンガをご存知だろうか。ネットでは割と話題になっている作品なので知っている人も多いと思う。コミックリュウに隔月連載だった石黒正数『ネムルバカ』(全1巻)。今時の女子大生がモラトリアムな日々をだらだらと過ごしている日常を淡々としたテンポで描いている作品。
面白いのは多分、作者の性癖なのだろうけれど、辛辣にアーティスト感を突いているところ。「駄サイクル」という言葉で「ものづくり」を目指す多くの人間が感じるであろう等身大の悩みや惰性をものの見事に描いている。
そのくだりを引用
先輩「あー、駄サイクルだねー。」
後輩「ダサイクル?なんすかそれ?」
先輩「私の造語、ぐるぐる廻り続けるだけで一歩も進歩しない駄目なサイクルのこと。輪の中で需要と供給が成立しちゃってるんだよ。自称ア~チストが何人か集まってそいつら同士で 見る→ホメる→作る→ホメられる を繰り返してるんだ。それはそれで自己顕示欲を満たすために完成された空間なんだよ。」
後輩「はぁ~、なるほどー。」
先輩「で自称ア~チストってのは常々やってて楽しいと思える程度の練習はするが、本当に身になる苦しい修行はツラいからせず・・・一方的に発表できる個展はするが、正式に裁きを受けるコンペやコンクールは身の程知るのが怖いから出ず・・・馴れ合いの中で自分が才能あるアーティストだと錯覚していく・・・駄サイクルの輪は自称ア~チストに限らず色んな形でどこにでもある・・・」
この『建築をめぐる22の寓話』が駄サイクルのひとつなのか、違うベクトルなのかはトークライブに来てもらえばわかると思う。建築を“見せず”に建築の輪郭を“明確にする”というのは簡単なようでいて難しく、誰かがやっているようで実は誰もやっていないということに気づいてもらえるはずだ。
最近流行の建築系のイベントの多くはこの「駄サイクル」の迷宮に入っているように感じる。勝手メディアの活用も巨大な建築模型の展示も外に開いていはいまい。
よく似た手法、企画、理論をデジタルコピーのごとく繰り返し、それを「透明感だの、モアレだの、浮遊だの、フラクタルだの」と名付けて、結果、希薄感のみが広がっていく。中身がないのだから恐ろしい。
是非『ネムルバカ』をご一読下さい。
もとい『建築をめぐる22の寓話』に来て下さい。
『建築をめぐる寓話』まであと8日
文責:筑波幸一郎-02373
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