2010年2月15日月曜日

『建築をめぐる22の寓話』トピック17


建築家すごろく


the lost decadeー失われた10年、バブル崩壊後の1993年から2002年を指す。


1986年の雑誌『建築文化』を読み返してみる。宮脇壇が若手建築家が住宅をせずに巨大建築ばかりに傾倒していく当時の現況を嘆き「住宅建築とは」と語った寄稿文を寄せていた。世はバブル景気が始まったばかり。


建築家への道が明確にあった時代があった。まずは身内の住宅でデビューし、小さな公共建築を手がけ、大きな国家プロジェクトや国際的な建築をつくりあげる。巨匠と呼ばれる建築家がまだまだ健在で、それは『建築家すごろく』と呼ばれた。


まだ40代が新人建築家と呼ばれていた頃の話。


今は30代がU30と呼ばれて新人的な扱いを受けている。しかしそこには往時の輝きはない。絶対的な存在が不在で、いわゆる人気キャラが乱立する状態だ。


彼らは、今やコミケに並ぶ同人誌の多彩なジャンル・カテゴリーが如く、建築家の役割を細分化し、自ら「建築家と呼んでくれるな」と宣い、かつてゼネコンやコンサルがやり尽くしたリサーチベースの商業建築などをクールハース風と言いながらリメイクし始めている。今をときめく情熱大陸、トップランナーのごとく。。。


疲弊した日本にはかつてのような巨大な国家プロジェクトはなく、かと言って潤沢にそれ以外の建築家需要があるわけでなく、結局、国内では趣味的な雑誌の読者を相手に小住宅をつくることに埋没し、国外では共産主義や新興国のイデオロギーに振り回され、地球規模のバブルに入り込み、自らの立ち位置が確認できない。見えないループに入っている。


それは宮脇壇が「今の若手は・・・」と嘆いた状況とはまったく違うステージになっていることを示す。しかし、それはあくまでのまわりを取り囲む条件の話だ。


自らを創作者であるとするならば、しぶとくしつこく、そして明るく・楽しく・面白く戦うしかない。


何を隠そう建築家にとっての「失われた10年」に属するのは、バブル期に建築を学んだ僕たちの世代なのだ。




文責:筑波幸一郎




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